タイムラインにこんな一連のツイートが流れてきた。
大川隆法が死んだ。僕の中の1995年が、また一つ終わった。なぜ大川隆法で1995年を思うのかというと、この上なくクソッタレな形で僕らがブルーハーツを奪われた年が、他でもない1995年だったからだ。
— コウイチ/koichi.um (@shuportv) 2023年3月2日
ブルーハーツの解散原因は宗教か?
1995年に解散したTHE BLUE HEARTS。解散の原因としてよく語られるのが、メンバーの一人が新興宗教にのめり込んだから、というものである。
おそらく、バンドのファンであっても、解散の原因は宗教問題だと認識している人が多いだろう。
結論から述べると、真相はメンバーや関係者本人たちにしか分からない。しかし、当時のインタビューなどを読む限り、宗教問題やそれに伴う不仲が一つの要因であることは否定しきれないものの、それら "だけ" が解散の原因であったとは思えないのである。
ブルーハーツのメンバー
ブルーハーツのメンバーはボーカルの甲本ヒロト、ギターの真島昌利、ベースの河口純之助、ドラムスの梶原徹也の4人である。
そして、この中で新宗教(新興宗教)を信仰していたメンバーは2人居る。時々この2人が混同されて話されてしまうこともあるため、整理しておく。
1人はドラムスの梶原徹也で、バンドに加入した時点で既に阿含宗に入信していた。
もう1人はベースの河口純之助で、1990年頃に幸福の科学に入信した。
前述の新宗教にのめり込み、解散の原因となったと言われるメンバーとは、河口のことを指している。
余談だが、この2人は信者であることを周囲に隠してはいなかった。梶原に関してはむしろ音楽活動との両立について苦悩していた人物だと思われる。
商品化もされている1991年のライブ映像では、河口がベースのボディに幸福の科学のステッカーを貼っているのが分かる。
なぜ宗教が原因とされるか
では、ブルーハーツの解散の原因が宗教である、と言われているのはなぜだろうか?
ブルーハーツの解散が発表された際、当時の週刊誌は「宗教問題か?」とこぞって取り上げた。その理由は、解散インタビューを掲載した『ROCKIN'ON JAPAN 1995年7月号』などにおいて河口が幸福の科学を称賛する内容の話をしている点にある。
河口は、
一番の変化っていうのはやっぱり幸福の科学の主宰・大川隆法先生に巡り合えたってことかなあ。うん、それが一番大きな変化かな。
と語っている。
更に、それはブルーハーツでの体験に比べても大きいことか?という問いには
いや、もうそんな比じゃないくらいデカいこと!
と答えている。
また、最後のアルバム『PAN』はバンドとしての曲は収録されておらず、実質的にソロの寄せ集めのような形式になっていることや、同アルバムに収録された甲本の『ヒューストン・ブルース』の歌詞に対する河口の批判、明らかに大川隆法について歌ったと思われる河口の『幸福の生産者』などの楽曲も要因であると思われる。
当時のファンはバンドが一気に瓦解していくようなこれらの感覚にショックを受けたのではないだろうか。
※河口がファンやスタッフを勧誘したことが原因とする説もあるが、これについては手持ちの雑誌等ではソースが確認できなかったためこれ以上は触れないでおく。Wikipedia先生によると音楽誌『バンドやろうぜ』の編集局コラムにそのような記述があるらしい。
一方で、甲本、真島、梶原の3人は、そのような話を明確に肯定しておらず、むしろ否定的であるのも事実である。
「宗教」以外の解散の理由とは?
1993年に発表された『STICK OUT』と『DUG OUT』の制作について、甲本は『ROCKIN'ON JAPAN 1999年7月号』において、凸凹*1の2作品を100点満点のアルバムだったとした上で、
僕にとっては実は『頑張ってここまでかな』っていうことの認識だったんだよ。『ここまでできたんだから次もっとすごいの!』っていうんじゃなくて、『ここまでできた、もういいんじゃないか!』っていう気にもなっちゃったの。
「『スティック・アウト』と『ダッグ・アウト』を作ったときの達成感ってのは、0が1になる達成感ではなく、1が1.5になってみたりするちょっと良くなったっていう感じだったんだよね」
と述べている。
また、『ROCKIN'ON JAPAN 1995年7月号』において、解散の原因については、バンドが「倦怠期の夫婦」のような状態になったこと、ブルーハーツの「音楽的限界」であると述べている。
つまり、甲本がブルーハーツに窮屈さを感じた上で、凸凹の2枚のアルバムを作ってみたものの、このメンバーではこれ以上のアルバムを作れる気がしなくなった、というのが理由だという。
あくまで100点満点のアルバムだが、100点以上を出せないのだと言い切れるのがすごい所。
また、真島も同様に
例えばレコードを作ってる時とかライヴのリハやってる時とか、そういう時に煮詰まるようなことが多くなってきたのは事実だよね
と述べている。
バンドの解散はいつ決まった?
『ROCKIN'ON JAPAN 1995年7月号』において、甲本が解散を意識したのは1991年リリーズのアルバム『HIGH KICKS』制作の時期だと語っている。
その後、凸凹ツアー*2の際に甲本はメンバー1人ずつと話し、自身の脱退を提案している。
そんで、ほかのメンバーに相談を持ちかけて『僕はもうこのバンド辞めようと思うんだ』って言ったの。で、『どうして?』って言うから、すごい簡単に言えばまあ『違うバンドがやりたいんだ』っていうこと。
で『僕、辞める』って言ったら『じゃあヒロト辞めるんなら、解散だね』って、すぐそういう風になった。
つまり、1991年の時点で既に甲本は自身の脱退あるいはバンドの解散を考えており、凸凹ツアーの段階でそれはメンバーに共有され、確定していたということだ。
結論
あくまで真相は本人たちにしか分からない、というのは冒頭に述べた通りだ。
しかし、彼らのインタビューを見る限り、それだけで解散に至るほどの宗教問題やそれによるメンバー間の不和があったとは一切言及されておらず、あくまで「このメンバーでは100点満点以上の物を作り出せない」という点が解散の理由だということが分かる。
個人的には甲本と真島は宗教に対して、どちらかと言えば否定的だと感じる*3。河口との間に宗教関連のいざこざがあったこと自体は事実なのかもしれないが、バンドの解散の責任をこの件のみに押し付けるような発言が拡散され、それを信じてしまう人が増えてゆくのは当然彼らの本意ではない。
河ちゃんのベースやコーラスはブルーハーツに必要不可欠だと思っている。この4人でこそのブルーハーツなのだ。
おまけ
ヒロトとマーシーの2人が活動するバンド「ザ・クロマニヨンズ」が2月7日に17枚目のアルバム『HEY! WONDER』をリリース。同時に全43公演の全国ツアー『ザ・クロマニヨンズ ツアー HEY! WONDER 2024』を開催!近くの公演があれば是非行ってみよう!
追記(3月6日)
思っていたより閲覧数が多かったので追記。
梶くんは現在はサルサガムテープなどの活動やドラムワークショップを全国で行っている。
TwitterやInstagramなどのSNSで情報発信も行っている。
河ちゃんは現在SNSなどでの発信は行っていないようだが、ザ・タイムトラベラーズのギター・ボーカルとしてバンド活動を行っている。
ザ・コーツの元ベーシストで、現在同じくタイムトラベラーズで活動している亀山哲彦氏のSNSでは、最近の河ちゃんの写真を見ることができる。
こちらは2021年撮影の梶くんとの写真。
ついでのついでに、MOJO CLUBの杉山章二丸氏のブログから、2013年の憂歌団のライブ後に楽屋で撮影された(らしい)4人の写真。